なぜペルーの糸なのか|アルパカが一本の糸になるまで
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当店の秋冬のアルパカは、すべてペルーの糸で編んでいます。商品ページの「ペルー産」という一行は、産地が書いてあるだけに見えるかもしれません。ただアルパカは少し事情が違います。どこで採れたかよりも、誰が刈って、誰が選り分けたかで、手元に届くセーターの肌ざわりが変わってしまうのです。
前回は、ベビーアルパカとロイヤルアルパカの違いが繊維の細さだという話を書きました。今回は、その細さがどこで決まるのかという話です。
アルパカの8割はペルーにいる
世界のアルパカの80%、500万頭以上がペルーにいます。プーノ、ワンカベリカ、クスコ、アプリマック。南部の高地に散らばっていて、12万世帯以上がアルパカの飼育で暮らしを立てています(糸を作っているインカトップス/ペルー農業開発省の数字)。
アンデスの高地では、作物がほとんど育ちません。そこに生える固い草を食べて生きられる数少ない動物がアルパカです。年に一度刈る毛が、そのまま現金収入になります。写真のような場所で、家族ごとの群れが飼われています。
刈り方で、ロイヤルが採れる量が変わる
毛刈りは年に一度だけです。その一度の刈り方が、実は等級そのものを左右します。
昔ながらの刈り方では、背中の細い毛と、脚や首まわりの太い毛が混ざってしまいます。いったん混ざった毛は、あとからどれだけ選り分けても細い等級としては使えません。
そこで生まれたのが「インカ・エスキラ(Inca Esquila)」という刈り方です。作ったのは、プーノにある研究拠点パコマルカ(Pacomarca)。機械刈りで、刈る人の安全とアルパカの負担に気を配りながら、部位ごとに分けて刈ります。細い等級に入る繊維の割合が上がり、毛も清潔で均一になる。アルパカ自身の負担も軽く、従来の刈り方では60%だった出産率が76%まで上がったそうです。
この刈り方は、のちにペルーの国家規格「NTP 231.370(良い毛刈りと原毛管理の実践)」になりました。刈り方が国の基準になるというのは、ほかの繊維ではあまり聞かない話です。インカトップスは毎年およそ1,000人の高地の生産者に、飼育や繁殖、健康管理まで含めた研修を無償で行っています。
選り分けるのは、いまも人の手
刈った毛は、台の上で人が手で選り分けます。機械ではありません。
ロイヤルアルパカとベビーアルパカが分かれるのも、この台の上です。ロイヤルアルパカは19ミクロン未満。背中などいちばん繊細な部分からしか採れず、ペルーで採れるワカヤ種の毛のうち1〜2%しかありません。
選り分けが甘ければ、ロイヤルになるはずだった毛がひとつ下の等級に落ちます。逆に丁寧に選り分ければ、同じ一頭からより多くの細い毛が採れる。細さは動物が生まれ持ったものですが、それを取り出せるかどうかは人の手にかかっています。
良いロットを作った生産者が報われる仕組みもあります。パコマルカが主催する「エル・キンタル・デル・インカ(El Quintal del Inca)」という原毛のコンテストです。細さ、清潔さ、密度、均一さを競い、上位に入ったロットはそのまま最高級のコレクションの原料になります。
色は、染める前からそこにある
アルパカの毛には、白のほかにベージュ、茶、グレー、黒と、生まれつきの色の幅があります。染めずにそのまま糸にできるということです。
ところが産業としては、あとから好きな色に染められる白がいちばん売りやすい。その結果、牧畜の現場では白い個体ばかりが増え、純粋な黒のアルパカはペルー全体の生産量の0.5%未満まで減ってしまいました。
それを押しとどめようと始まったのが「ヤナパコ(Yanapaco)」という取り組みです。パコマルカでおよそ1,000頭の純黒の群れを育てていて、ペルーで最大の純黒アルパカの群れになっています。
糸にする会社の話
ここまで出てきた仕組みを作ったのは、アレキパという町の会社です。
1957年、フランシス・O・パシーとウーゴ・コルソ・モラレスの二人が、アレキパで「パシー&コルソ」を創業しました。1965年には、原毛のまま輸出するのをやめ、ペルー国内で細い糸まで仕上げるための会社を設立します。これがいまのインカトップスです。2000年にはプーノに研究拠点パコマルカを作りました。刈り方も、コンテストも、黒の保護も、すべてここから出ています。
アレキパは、高地から集まる原毛の集散地です。選別も、洗いも、紡績も、染めも、この町に集まっています。
当店の糸
当店のロイヤルアルパカのカーディガンは、インカトップスの「WANKA(ワンカ)」という糸で編んでいます。100%ロイヤルアルパカの糸です。ベビーアルパカのニットも、同じペルーの糸を使っています。
商品ページの「ペルー産」は、ただの産地表示ではありません。ここまでの手を通ってきた糸です、という意味です。
よくあるご質問
アルパカはなぜペルー産が多いのですか。
世界のアルパカの80%、500万頭以上がペルーにいるためです。プーノやクスコなど南部の高地に散らばっていて、12万世帯以上がアルパカの飼育で暮らしています。
刈り方で品質が変わるというのは本当ですか。
はい。昔ながらの刈り方では背中の細い毛と脚や首の太い毛が混ざり、あとから選り分けても細い等級には使えなくなります。パコマルカが作った「インカ・エスキラ」という部位ごとに分けて刈る方法では、細い等級に入る繊維の割合が上がります。この方法はペルーの国家規格 NTP 231.370 になりました。
ロイヤルアルパカとベビーアルパカは、どこで分かれるのですか。
刈ったあと、人が台の上で手で選り分けるときに分かれます。ロイヤルアルパカは19ミクロン未満で、背中などいちばん繊細な部分からしか採れず、ペルーのワカヤ種の毛の1〜2%しかありません。
黒やグレーのアルパカのニットは染めているのですか。
アルパカには白のほかにベージュ・茶・グレー・黒と生まれつきの色があり、染めずに糸にできます。なお純粋な黒は一時ペルー全体の生産量の0.5%未満まで減り、いまはパコマルカで約1,000頭の群れが育てられています。
当店のアルパカはどこの糸ですか。
ペルー・アレキパのインカトップスの糸です。ロイヤルアルパカのカーディガンは100%ロイヤルアルパカの「WANKA」という糸で編んでいます。
出典
- How is the textile industry in Peru?(Inca Tops) — ペルーのアルパカ頭数・地域・12万世帯
- Royal Alpaca(Inca Tops) — 19ミクロン未満・ワカヤ種の1〜2%・背中・WANKA
- Inca Esquila(Pacomarca) — 刈り方・細い等級の割合・出産率60%→76%・NTP 231.370
- Alpaca 16(Inca Tops) — エル・キンタル・デル・インカの主催と審査項目
- Communities projects(Grupo Inca) — 年間約1,000人の研修・ヤナパコ・0.5%未満・約1,000頭
- Grupo Inca — 1957年創業・1965年インカトップス・2000年パコマルカ